戸惑った

もう20数年前に亡くなった父親は、脳梗塞で倒れてから長い間病院暮らしをしていた。乳飲み子だった娘をおぶって(当時はだっこベルトは出始め)度々見舞いに行っていた。麻痺があってあまりしゃべれなかったけど、痴呆ではなかったので誰が来たかはちゃんと分かっていたせいか、嬉しいのか悲しいのか分からないような顔になって私の顔を見ると泣いていた。

今日母親の施設に毎月の手続きをしに出かけた。着いてすぐの時にはみんなで大きなテーブルについて折り紙を折っていた。
来たよってつもりで、”おっっ”てを挙げて挨拶をして、事務所へ入った。
事務所で手続きを済ませて出てくると、みんなでタオルを使って体操をしていた。
リズムに合わせて、タオルで両肩を交互にぽんぽんぽんぽんするのをこっそり見ていた。リズムにぴったり合っていて、ああ、この母の娘なのだなぁなんて思ったりして。

いつまでもぼぉっと見ていても仕方ないので、母親の後ろに回って、肩をたたき、”体操してるから帰るから、元気でね”って声をかけて出口への階段に向かった。
階段を下りる前にもう一度振り返って大きくバイバイと手を振ると、母親はタオルをあげてバイバイしながらあっという間に泣き顔になり、そのままうつむいてタオルでそっと涙を拭いていた。
思いもかけない母親の反応に戸惑いながら私も一瞬で涙があふれてきた。どういう気持ちの涙なのかは言葉に出来ないけど。
母親のところへ戻ろうかと一瞬だけ戸惑いながら目を泳がせてていると、こっちを見ているヘルパーさんと目が合った。

大丈夫ですよ、ちゃんとフォローしますからって(私が勝手に思ったのかも)風の、大きな頷きに、私も、どうぞ、よろしくお願いしますのお辞儀をして階段を降りてきた。

私の結婚披露宴の時はウツまっただ中だったので、花嫁の手紙の朗読(司会者の人が読んでくれた)を聞いていても、どこか心ここにあらずで、私だけが泣いていたのに、あんなに気持ちと直結した母親の泣き顔を見たのは初めてなような気がして、そういえばと亡くなる前のまだ元気だった頃の父親を思い出したりしたんであります。

車に乗ってモンスタが流れてても、まだ少しべそかいてたんだけど、そうそう昨日の東京初日記事のスポーツ新聞を買わなきゃってコンビニに寄ったくらいから泣き顔ではなくなったんであります。


泣き顔だったことを早く忘れちゃってね、なんて独り言を言いながら、明後日の東京行きの準備(留守中の食事の事なんか)を始めてる肌寒い十三夜イブであります。