お別れしました

べんけいが金曜夜に何も口にしなくなったんで、いよいよその時が近づいて来たと覚悟をした。
夜半から明け方にかけて雪が降ると天気予報がうるさく言ってた。
そんな寒い夜に小屋の奥にうずくまっている。
近づけば歯をむいて唸るので、腰が立たなくなったその日に布団を投げ入れたままなんだか寒そうなのが気になって仕方なかった。

がるがる言うんで全然近寄れないけど、体をなでてやることもなく死んでしまったら、それは可哀相すぎるって思いが強くなって、とにかくべんけいの側にいてやろうと、パジャマの上にたくさん着込んで小屋へ行った。

本当に雪が降り始めていたんで、私と一緒に嫁に来たこたつ布団(亡骸を包むつもりで押し入れから出してあった)を抱えて小屋へ近づいた。べんけいに声をかけながら狭い入り口からぐんぐんと布団を押し込みながら、私の体も中へ入れた。
体全体に布団を掛け、そっと手を出したらがるがる言わないんで、いつもしていたように耳の後ろをなでたり胸をさすったり頭をなでたりした。
なかなかそこを立てないで、わーわー泣きながら(よっぱって事もあって)しばらくべんけいの体をさすっていた。

30分くらいはたったんだろう。
もう行くね。また日が昇ったらね。と声をかけて、自分の布団へ戻った。

で、土曜日はあまりちゃんと寝てないんで使い物にならない日だった。
べんけいは、少し水をのんだらしい。
ちょっと元気そうになった。体が温かくなったからだろうか。
元気そうに見えることが、べんけいにとっていいことなのかはわからない。

日曜の明け方、べんけいの元気そうな声が聞こえる。
さすがに、朝5時前に布団を出ることはできなかった。
なんどもなくんで、声がかれてきてるのを聞いていた。
前日は泣き声さえも上げなくなってたんで、吠えるくらい元気になったのかなとぼんやり思ってた。


体を触ろうとすこし近づいたら、がるって言いそうな雰囲気を醸しているんで手を引っ込めた。

塾が終わったおやじと出かけて戻ってきたら、すごく少しの息をしている。

ほんとにいよいよね、ほんとにええ子やよ、えらかったねと心で思いながら頭をなでた。

家へ戻って先週分の坂の上を見た。1時間半。見終わった頃にはその時が来るかもしれないと思っていたら、30分くらい見たところでおやじが走ってきた。

しずかにしずかに眠るようだった。
おやじとおじいと3人で小屋から出して布団にくるんだ。

今朝、市の斎苑で火葬してもらった。
ちゃんとお線香をあげるお別れをさせてくれた。

空輸される小屋の隙間を埋めるための買い手のない子犬だったべんけい。
偶然通りかかった秋田犬だけのお店に入った私たちの目にとまって、家へきたべんけい。

満13歳でした。長寿らしいです。今日でお別れしました。よく生きたと思います。