再生不可能

確かに目の前に立っている藤原の目を見つめていたはずなのに、どんな表情だったか全然思い出せない。私の前のNさんはちゃんんとちゃんと話を進めて聞きたいことのほとんどを聞いていたようだった。それを後ろで聞いていた私はもうそれだけで充分なので、自分の番になって、藤原の前に立って「こんにちは」と言い、その先どうしたらいいのかとまどっていたら、そっと私の手を取ってくれた。
そうじゃん、握手会なんだからさ、握手しなくちゃねと気づいたら、なんだかしどろもどろで、瞬時に自分で自分をもてあましたような気分になった。それでも目の前の藤原はにこにこしてる。天保の王子が好きだったという私に、
「次の舞台は静かなお芝居で、名古屋へも来るのでぜひみてください」というので、
「はい、必ず。楽しみにしています(きらきら・・と目がしてたと思う)。」といって、頭を下げて去ろうとしたら、その間ずっと手を取っていた藤原が、きゅっと力を入れて私の手を握った。ぎゅっとじゃなくてきゅっていうところが憎いじゃないか、と今なら言えるが、その時はもう気持ちが舞い上がって思わず乙女の目をして藤原を見直してしまった。が、それもどんな表情だったか思い出せない。
はぁなんで藤原は握り返したんだろう。だめじゃん。そんな事されたら、どんどん深みにハマって行ってしまうじゃん。
なので今年のライブ曲順に並び替えたすまCDを聞いて、昨日のことは夢だったことにしようとしている。ああ、何がしたいんだ私は。