ウチの話したがりー

夕方ちょい前。おじいの部屋からおじいの話し声が聞こえる。
ごっきげんさんになって、誰かに電話をしていると思われる。
私の中で警戒警報が鳴る。
こんな風なときは、夕飯時にはもうべろんべろんで話が通じなくなってるはず。
どうやって、やり過ごすかを頭の中でシミュレーションしておく。
よし!
覚悟を決めておじいにご飯が出来たと声をかける。
ベットで寝転がりながら、いつものように寝ぼけた声で”ふわぁーーい”の返事が返ってきた。
が、一向に部屋から出てこない。
やっぱり。
酔っぱらって寝てしまっているんだ。
おじいに用意した夕食はそのままに、なべかまやらの片付けをしていたら、音もなくテーブルについていた(びっくりだよ)。いつもより2時間遅れの夕食。
背中のセンサーで感じるのはまだまだ酔っぱらっている様子のおじい。へたに関わると危険だぞと、すぅーっと片付けが済んだよって体で部屋を移動した。
洗濯物をたたみながら昨夜のいわねさまを再生する。
おじいは、ふはっとかなんとか、ときどき小さく笑いながら一人で食事を済ませ部屋へ戻っていった。
よし。何事もなくやり過ごした。
と、油断させておいて(そんなつもりじゃないだろうけどね)、にかにかしながら私の目の前のドアを開けてよっぱ顔をのぞかせる。
”面白い話があってなぁ、聞きたい?邪魔なら止めとくが。”という。
ああ、こりゃ逃げられん。ってことで、再生をストップしておじいの与太話を聞く。

警戒しながらも、とりあえず会話にはなっているんで、面白がって話を最後まで聞いた。
もっと話てもいいけど、この辺で止めとくかって満足度は7割程度な感じでおじいが部屋へ戻っていった。

話は落語の与太郎だらけのぼけ話だった。なんでそんなに私に話をしたかったんだろうと思う。

一人暮らしの年取った親爺のところへ娘婿がお寿司を持って訪ねてきたが、あいにく長男と出かけていて留守だった。
そこは村一軒のお店でおじいの実家跡で店主の親爺はおじいの親戚筋ってことで、畑仕事の後に閉まってるお店の前の柿の木で涼んでいるおじいと、その村にずっと住んでる同級生がちょうどそこに出会った。生ものなんでお店の隣家に住む友人おじいにお寿司を預けたらどうだとおじいが提案し、じゃっあってことで友人おじいの冷蔵庫へ入れてもらい帰りが遅かったら食べてしまってくれと娘婿は言ったんだと。
で、娘婿は翌日店主親爺に電話で事の次第を話したら、やっぱりお寿司は手元へこなかったんだと。
店主親爺はその日に一度5時ごろに帰宅したが、またすぐに出かけたんだと。
だとすれば、隣家友人おじいは気がつかないかもしれない。それに少々ボケがきてるからそりゃ最初から無理なことだろうと、店主親爺もあきらめていたらしい。

ってな話なのだけど、どうしても私に話したかったってのが、どうもよくわからない。
自分がぼけてるってわかってるのに、隣家友人に預けろって言ったんがいかんかったんかなぁ、と悔やんでいるようでもある。
そりゃ、そんな事仕方ないやん。おとうさんが持って帰ってくるわけにもいかんしって、私は言う。

自分のミスだと思い悩んでるおじいなのか、ただ与太話をしたかったのか。
どっちかわかんないけど、まぁ諍いにはならずに終わった。よかった。よかった。そんな日。