じいさん

一時、毎夕の酔っぱらい具合に閉口していたおじいが、ここのところとても普通のおじいで、少々の緊張感は否めないが、穏便な日々が続いている。

そんなおじいが今日は義妹の姑の49日法要に出かけた。義妹の家での行事の折には義妹の送迎がつきものであった。
なのだが、さすがに今朝は迎えに来られないといので、私が送っていった。
11時出発なのに10時から黒服に着替えてしまってるのはいつものこと。そのまま玄関から出て行こうとするおじいに、”まだ10時やに”と声をかけておく。
お互いそれほど苛つくこともなく11時に出発して義妹宅へ送り届ける。
車の方向を変える時におじいをみると、えらくにっこりとしてるんで、私もにっこりして帰ってきた。

3時過ぎ、義妹からおじいをどうするや?と電話が入るとおやじから連絡がある。
なんだ?送ってくるつもりじゃなかったんかい?と思うのはおやじも私も同じだったらしい。
だが、なんの予定もない私。さて、迎えにでることにするかと、腰を上げかけたら、義妹から送ってくるからと連絡が入る。

5時近くなっても帰ってこない。ほほう、酔っぱらって義妹んちで一寝入りしてしまってるのかと思っていたところへ、義妹が引き物をもって家へ来た。
”おとうさん、まだ帰ってない?”という。
へ??一緒じゃないのか。

話を聞けば、会食場からのバスに乗って義妹宅までは来たけど、義妹がお茶出しをしてる間に姿が見えなくなってしまったというのだ。

ま、同じ市内だし子供じゃないんだから歩いてでも帰ってこられるだろうとは思っても、どこかで転んでやしないかとか、川に落ちたりしておぼれてやしないかとか、東京から京都へ移動中の娘に名古屋で降りろと連絡をしなきゃいけなくなるだろうかとか、むすこを東京から呼び寄せなきゃいけないことになりゃしないかとか、本気じゃないけど、うっすらそんなことを考えていた。

そんな時の心強い”たよりがないのがよいたより”。警察とか救急とかから連絡がないから、大丈夫だろうと、とにかく普通にしていようと夕食をつくり、いつもの時間にいつものように一人だけだけど食べ始めたところで、玄関で靴音がする。

おじいが靴を脱いでいる。
”いままでどこにおったや?”と、普通にきいた。

義妹宅の近くには農協のスーパーがある。私はそこに行ってるんじゃないかと思ったが、果たしておじいは、
”農協へ行ってタクシーに乗ろうと思って、公衆電話のトコでちゃんと大人しすわっとったが、全然タクシーがこんで、歩いて帰ろうと思って歩いたが、歩いても歩いても駅につかん。とぉーなあー。”

そりゃそうだ。私も朝結構遠いなぁと運転しながら思ったもの。もしも歩いてるなら、革靴なんかで歩いたことのないおじいは、靴を捨ててしまってくるんじゃないかと思ってたから、そう聞いてみたら、
”靴が大事やで捨てやせん”という。
ははっ、確かにしぶちんおじいらしい。


瀬戸駅までやっとの思いでたどり着いてそこからタクシーに乗って帰ってきたという。

”血の巡りがよぉなっとるぞ、きっと。”
”ほだね、歩くのはええことやでね。”
で、ご飯を食べてる私をみて、
”はぁ(もう)6時か。ほりゃ心配するわな。やが、めしはくーたなぁ。”という。

それではお腹が減るから食べたほうがいいと私も言うが、這う這うの体で帰ってきたところでは食べる気にならないのもわかる気がする。

なんにしても、無事に帰ってきてよかったなぁな夕方。
だれもがそんなに真剣に心配はしなかった。なんといっても我が家では一番サバイバーなおじい。
おじいがいればライフラインが途切れても我が家は絶対食いつないでいけるという絶対の信頼がある。

よめしゅうと 25年もやってりゃ それなりおやこ ってか。



でね、おばさんにおじいを送っててってねって話したら、義妹がおばさんによっぱおじいの面倒を子供たちに頼むよっていったら、いやーな顔してたって言ってたよって。
そんな話を聞いて一人でお昼の支度してて、
あれ?ウチの子たちだったら、いやーな顔なんてしないよなって思った。

よっぱおじいに本気でイヤーな顔をする子供たちが全然想像できない。
子供たちにはどんなおじいだって”ウチのおじいちゃん”なんだろうからって。親ばかじゃないと思うんだけどなぁ。