乙女の祈り

私のちっさなころ、オルゴールってものがけっこう身近にあった。
子供のおもちゃらしく、小さなおもちゃの宝石箱のふたを開けると、ふたの裏は3cm四方くらいの鏡とふかふかの座布団みたいなのがあって、箱の方はちいさなくぼみとその横は台になっている。
その台の上に小さなバレリーナの人形を置くとバレリーナの足下の磁石がくっついて、乙女の祈りのメロディににのってそのバレリーナがくるくると台の上を回る。
そんなおもちゃがお気に入りだった事を、ドラマの親子共演をみて思い出した。

その頃のお土産やらなんやらのオルゴールの定番と言えば、乙女の祈りエリーゼのためにだった。

いやで、いやで仕方なかったピアノの練習でも、ちゃんとエリーゼのためにを弾いた時は嬉しかった。
でも、乙女の祈りはなかなか難しそうで、手の届かなそうな私のあこがれの曲になっていた。

エリーゼから何年経った後だろうか、ピアノの先生が、これ練習しなさいと、渡してくれたピアノピースが乙女の祈りだった。
嬉しくて嬉しくて本気で弾きこんで自分でも感情込めて暗譜で弾けるようになった。それが何歳だったか全然覚えていないけど、中学受験の前にピアノはやめてしまったので、小学生だったのだろう。

私が通っていたピアノ教室はご夫婦でみてくださっていて、男先生(体が弱くて見た目は芥川龍之介のようでピアノ教室の障子の向こう側はベットがあっていつもそこで横になっていたようだった。)は初心者のレッスンはみてくれないけど、乙女の祈りの時は男先生が見てくれていた。

どれくらい練習期間があったか、仕上げの日って時に弾き終わった後”よしっ!上手い!”って褒めてくれた。

私の短いピアノ人生で唯一褒められた曲が”乙女の祈り”なのだ。私の中では思い入れの深い曲になっている。

ピアノとチェロの調べは私の気持ちに暖かく深くしみていく。

天使の羽かけって言葉も同じように、わけもなく心が温かくじんわりとする。


倉本聰にはやっぱりやられる まいったね だな。

最期の息 自分のが聞けるんだろうかね なんて、今嗚咽しながらみている。その息を聞いた緒形拳は、現実にはいなくなってしまってる。
なんかすごい。倉本も緒方も中井も。なんか、気持ちいいやられ方だ。