昔取った杵柄

私が車の免許を取ったのは18才の夏だった。免許を取ったらすぐに自分の車を買ってもらえると思いこんでいたお嬢様時代。なんとなれば、私の友人たちは皆、免許を取る前から買ってもらえる車を決めていて、本当に免許を取得したらすぐに自分の車で大学に通っていたから。
ああ、私は買ってもらえないんだなぁと諦めて大人しくしていたら、若葉マークが外れる頃に父親が、20万(確かそうだったと思う)で中古車を探してこい、それなら買ってやるといいだした。
チャーーンス!ってことで、車の街トヨタ近くに住む叔母を頼って20万のカローラ(クーラー付き)を探してきたら、なんと、クーラー付きなんぞ生意気だ、とか何とか言って、結局自分のつき合いのある車やさんで20万の新車スプリンター(4速マニュアル、クーラーなし、時計をつけてやったぞ、AMラジオだけ)を頼んできたという。
だったら最初からそうしてくれりゃよかったのにと愚痴りたくなるのを我慢して、へへーありがたや、ありがたやと押し頂いて嬉しがって乗っていた。
三こ下の妹が免許を取って暫くしたときに、二人に一台ずつ車を買ってやるから好きな車を選べ、ただそれは嫁入り道具になるやつだからな(脳血栓で倒れた後だったからそれ以上は責任持てんぞって事だと思う)、って事で、その時私が選んだのが、発売されたばかりのマッチのマーチだった(やっぱりマニュアル4速、でもクーラー付きの上にFMラジオもカセットテープも聞けれた豪華版)。
当時すでにおやじと付き合っていて、おやじの親戚たちにもマッチのファンだった事も知れ渡っていたので、
あんた、マッチのファンだからマーチにしたんでしょうってさんざん言われた。
そうじゃないんだよ。選んだ理由は、燃費がよくて、でも軽自動車じゃないけど、排気量が1400cc以内(自動車税も少し安かったから)ってのがよくて、ガソリン代も任意保険料も自分で払わなきゃいけない身分だったからで、その上私の好きなマッチがCMをしていたって事だった(やっぱりそうかい)、ような覚えがある。

で、なんでそんなことを思い出したかというと、娘がおじいのお下がりで貰った車がマーチで、その車を今夜運転したからだ。
なんで、そんなことになったかというと、おやじがBMを修理に出さなきゃいけないような事をしたからで、その代車で借りてる古いカローラに乗るよりは、車庫の中で寝ているマーチに乗った方がいいんじゃないかってことで、娘に内緒でそれを送迎のために使ったという顛末なのである。

なんで修理に出す羽目になったかと言えば、おやじがぼけた運転をしたからで、それがどんなだったかと言えば、本屋さんの駐車場に止める時に頭からつっこんだので、バックで車を出さなきゃいけなくて、その時になにを思ったのか(先月分の請求額が思いの外高かったから少しショックを受けていた)車をまっすぐバックさせていたら、ドゴーーーンと重い衝撃を受けて車が止まったってことだ。
反対側に止まっていた車にぶつかって止まったと言うことを認識するまでに、少しばかり時間を要した。
ハンドルを握っていたおやじは自分が何をしでかしたか理解出来ない様子だった。
誰かを傷つけることなく、お互いの車を修理するだけですむことは、ホントに幸運なことだったと、よかったねぇ、最小の傷ですんでと思った。

ってことなので、BMが戻ってくるまでの10日間ほど懐かしいマーチのハンドルを握らせてもらうわね。