食べたぞ

義母が亡くなった後、おやじが肉も白米もコーヒーも口にしなくなった。
だが、それ以前から全く食べられないのが、生のトマト、なす、極めつけが鶏肉だ。鳥が側に寄るだけで飛び上がって逃げる。
子供たちが小さい頃に動物園へ行っても、鳥舎には決して近づかなかった。あの骨張った足が気持ち悪くていけないんだそうだ。そんなものの肉を食べるなんて、正気の沙汰ではないなどというような言い方をするくらいに嫌っている。
今夜は息子のお弁当用に生協のカレー味の付いたフライパンで焼く鶏肉の残りをお皿に出しておいた。授業の合間のほんの少しの時間におやじが慌てて夕食を食べに来た。私も送迎をして戻ってきたばかりなので、他のおかずを温めたりしてる間に、おやじがそのお皿に残っていた鶏肉を口に運んでいた。
・・・・!!という顔をしている私に、
「これ肉か?」
「うん、鶏肉。」
「!!おかしいと思った。けど魚かなんかだと思った。」といいながら、口に入れかけた鶏肉をお皿に戻した。
でも、もう一切れ二切れはお皿から消えてる気がする。
「なんだ、食べれるじゃん。」と、普通に返す私。

今までのおやじなら、箸を投げつけるくらいにキレるということもあるだろうが、なんでか今夜は穏やかに、何事もなかったかのように他のおかずを食べて食事を終え、また塾へ行った。
今頃、胸も腹もムカムカしてるかもしれない。

後から戻ってきた時に、それに触れるべきか触れざるべきか・・・・ま、何もなかったことにしておいた方が、万事丸いだろうな。 うん、そうしておこう。

食わず嫌いなんて そんなもんだ 食べたことなけりゃ 味もわかんねぇもん


鳥と言えば、剛がなんであんなにトビにこだわってるのかが分からなかった。
それに最終回にあれこれ詰め込みすぎたよな。あちこちの話が出来すぎだ。
これまで丁寧に人物を描いてきただけに、なんだ、やっぱりお安い作り物ドラマねって印象を持たれてしまうのが残念な最終回だった。

剛がトビを目で追うのをみていて、そう言えば、トンビを見なくなったなぁと気が付いた。ここ数年、見なくなったことにも気付かないでいた。
トンビが空を滑空しているのが、当たり前の景色だったのは何年前なんだろう。
当たり前じゃなかったカルガモの家族が川にいるのが全然珍しくなくなったのは一体何年前から何だろう。

見えるものと見えないもの。
人間の目で見えないところで何かが起きてるのかな。
自然界でも人の社会でも、見えないところで起きてることがとても大事だって事は分かっていても、見えないから何も出来ないし、何かをする術をもっていないことが、少し歯がゆい気がする。