約束

私たち家族は、娘が中1息子が小4の年のゴールデンウィーク家族旅行の帰り道に偶然通りかかったペットショップにふらっと立ち寄った。
その前に飼っていた猫たちは、2.3年または半年くらいで出かけきり帰ってこなくなったり、立て続けに病気で死んでしまったりしていて、少しの間家に猫がいない時があった。
そんな時に立ち寄った旅行帰りのペットショップで出会った私たち家族ととら柄の仔猫。どういういきさつでそこにいたのかわからないけど、血統書付きの何万円もするきちんとしたゲージに入ってた猫じゃなくて、もらってくださいみたいにぞんざいに扱われていた仔猫2匹の内から気に入った方を抱き上げたのは誰だったか忘れてしまったが、基本猫好きの私たちが一度抱き上げた猫をもう一度その籠の中へ戻すことは出来なくなっていた。
それまでのえさ代世話代としての5000円(息子が小遣いからだしたとおやじが言ってる)と引き替えに私たちの家族になった仔猫*1に帰り道の途中でとらと名付けた。
その時に私はとらと約束をした。ずっとこの先長いこと家にいるんだよ。最期の時は絶対家で面倒みるからね、ちゃんと帰ってくるんだよ、とそのうんこくさいの仔猫の耳元に話しかけた。
以来今日まで、とらにはその時の約束をくり返しくり返し言いきかせてきた。
昨夜もうほとんど虫の息になってしまってるとらの背中を撫でながら聞いてみた。
「一人でいたい?」
しっぽをパタパタとふる。
「側にいて欲しくない?」
しっぽをパタパタとふる。
「側にいてもいい?」
ほとんどしっぽを動かさない。
これを2.3度繰り返した後、私はとらを一人にしておいて寝ることにした。猫は死ぬ時には姿をかくす習性があるので、とらも家にはいるけれど、最期の時を誰にも見られたくないんだろうと側にいたい気持ちを朝まで我慢することにした(ちゃんと寝ちゃってたけどね)。
朝6時頃様子を伺ってみると、ほとんどちゃんと歩けないし目も開けられないような状態だったのに、トイレの中でうずくまっているようだった。息がないのかと側へ寄ろうとしたら、ザッと砂の動く音がした。私はそっとそこから離れもう少しとらをひとりにしておこうと自分の布団へ戻った。
8時前にもう一度とらをみる。トイレの中で動かないようだ。体を撫でてみる。呼吸はしてないようだ。昨夜私はとらと、体液で汚れてしまった顔や手はちゃんときれいに洗ってあげるからねとの約束した。その約束通り、トイレの中からとらを抱き上げ、顔と手を洗ってあげた。いつもの私のように、とってもきれいと言うわけにはいかないが、きっと先に死んでしまってるとらのかあさんにあっても驚かれないくらいには洗えたんじゃないかな。
最初にした約束を守り最期まで家にいたとら。昨日はお天気だったのにぽかぽかお日様に当たれなかったとらをいつもの座布団に寝かせタオルでくるんで、とらがよくいたベランダで少しの間ひなたぼっこをさせた。

そしてとらはたくさんのお花とイカとサワラとショートケーキと一緒に桜の下で鴨の声を聞き川の水音を聞きながら土に還るのだ。

とらは息子と娘にはそんな姿を見せたくなかったんだろう。ちゃんと生きている姿を覚えていて欲しかったんだろうと思う。だから娘がこちらの事を現実に思えないくらいになるのを待って、そして息子が修学旅行で家にいない時に息を引き取ったんだろう。だから、とらがいなくなってしまったこと以外を悲しく思うことはないんだよ。
とらと一緒に過ごせた日々にありがとうの気持ちと、約束を守ってくれたとらにたくさんのありがとうを言いたい。

そして、ここ3週間ほどずっと重苦しいとらの事しか書いていないこの日記をほとんど毎日のように読んでくださってたお友だちの皆さんにもありがとうの気持ちで一杯です。皆さんが読んでくださってる事で恥ずかしいこと出来ないというか、大きな心の支えになっていました。ほんとうに有り難うございました。まだしばらくは悲しみに浸ってるとは思いますが、今度お会い出来るくらいの時にはいつもの私になっていられると思います。その時を楽しみにしています。

*1:お店の人曰くアビシニアンとのミックスらしい