メモ。

最近読んだ本。

ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯 (岩波文庫)『ラサリーリョ・デ・トルメスの生涯』 作者不詳 スペイン
文庫本にして100ページ強と言う短編。さらっと読めます。これも岩波の一括重版企画の中の一冊。「16世紀当時のスペインの社会や下層民の生活が風刺鋭く、簡潔な描写で赤裸々に映し出されて」いるそうなので気になって読んでみました。
ひとりの小僧がひどい主人に仕えながら辛酸をなめながらも悪知恵を大いに活用して生きていく悪漢(ピカレスク)小説。
話の展開に引き付けられたり、文章の美辞麗句を愛でる類の本ではなく、通俗的な生活をそのまま書き記していくだけの内容なので、「読んだー!」という感じにはならないのですが(短いしね)、当時の生活を垣間見ることが出来るし、主人公のラサリーリョが常人にあらざる悪賢さを発揮する主人からいかにその裏をかいて日々の生活の糧(本当の意味での糧、食料)を手に入れているかを読んでいるだけでも面白いので結構グッド。
が、文芸作品としてのはあんまりグッドじゃありません。作者が本を書くのにだんだん飽きてきたのか6人中3人の主人に仕える顛末が前ページの内90パーセント近くを占めている有様で、後半の三人はまとめて100ページ中20ページも割かれていません。ひどいもんです。
なので後代に残る文学作品の傑作、と言うよりもある時代を象徴する一冊、と言う位置づけのほうがしっくり来る作品です。事実この作品が世に出た後悪漢小説は一時代をなすほど流行ったみたいですし、なによりこの時代の風俗を知る上では作品の持つ写実性がとてもよい助けになってくれるのでまさに時代の生んだ作品といえるのではないでしょうか。

そうそう、セルバンテスセビリアの理髪師もカサノヴァ回想録も(と思ったけど、カサノヴァはヴェネツィア人らしくてびっくり)読んだことないのでこれが初スペイン文学です。スペイン人が主役のやつ(モリエールドン・ジュアンとか)とかラテン文学(ボルヘスとかマルケス*1とか)とかは読んだことあったけど意外とスペイン人作家、と言うのは初めてでよめてよかった。

やっぱり岩波は面白いなあ、ひとりごちてしまう初夏の夜。理系じゃないよなぁ。

*1:そういやマルケスエレンディラが舞台化されるみたいですがあんなのどうやってやるんだと、これもひとりごちる。あの世界観は難しいと思う。